お役立ちコラム

「既存システムを外に預ける」だけがクラウド活用ではありません

クラウドが登場してから、既に数年が経過しました。「導入時の費用負担が少ない」という点はクラウドの大きな特徴の一つです。とくに中小企業にとってはIT活用の敷居を下げる手段として注目されてきました。ところが、クラウドが中小企業の大半に活用されているといった状況にはまだ至っていません。その背景には『クラウドの活用場面が限定されてしまっている』という実情があります。今回は中小企業がクラウドを賢く活用するための新たな視点をご紹介していきたいと思います。

 

「今よりも安くなる」という期待が生んだステレオタイプ

まず、以下のグラフをご覧ください。これは年商5億円未満の企業に対し、クラウド活用における最大の障壁は何か?を尋ねた結果です。

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回答割合の高い項目としては

「クラウド移行を主導する社内人材がいない」(18.2%)

「社外にデータを置くことが不安である」(15.2%)

「クラウド移行作業にかかる費用負担が大きい」(12.1%)

「クラウド事業者による障害が心配である」(12.1%)

などが挙げられています。

これらの項目を良く眺めてみると、ある事柄に気が付きます。それは「いずれの項目も既存の業務システムをクラウドへ移行する」というケースを想定した時に直面する障壁であるということです。

 

利用中の会計/販売/人事などの基幹系システムやグループウェア/メールなどの情報系システムをクラウドへ移行するのは大変です。「データをどうやって移すのか?」「どのタイミングでシステムを切り替えるのか?」など悩みどころは多々あります。自力で作業を行うのが難しい場合は外部に委託する必要もあります。そのため、『クラウド移行を主導する社内人材がいない』や『クラウド移行作業にかかる費用負担が大きい』といった課題が生じてくるわけです。

 

また、業務システムをクラウドへ移行するとなれば、様々なデータも社外へ預けることになります。財務情報、顧客情報、取引先とのやりとりが記載されたメールなど、業務システムには秘匿性の高いデータが数多く格納されています。『社外にデータを置くことが不安である』や『クラウド事業者による障害が心配である』といった懸念が生じるのは当然といえるでしょう。

 

なぜ、「既存の業務システムをクラウドへ移行する」というケースを想定する中小企業が多いのでしょうか?その主な要因はクラウドが登場した頃に遡ります。冒頭に述べたようにクラウドは利用者側がハードウェアやソフトウェアを購入せずに済むという点で、「導入時の費用負担が少ない」という特徴を持ちます。ところが、クラウドを展開する一部のIT企業によるアピールなども影響し、これが拡大解釈されて「既存の業務システムをクラウドへ移行すれば安くなる」といった一種のステレオタイプが生まれていったのです。

 

ですが、上記のグラフが示すように既存の業務システムをクラウドへ移行するには様々な障壁が存在します。クラウドを利用するためにハードウェアやソフトウェアを購入する必要はなく、「導入時の費用負担が少ない」というメリットは確かにあります。ところが、そのメリットよりも「移行に要する負担が大きい」というデメリットの方が上回ってしまうことが少なくないのです。

 

「ちょい足し」によるクラウド活用も検討候補に入れておこう

では、中小企業がクラウドを賢く活用するためにはどうすれば良いのでしょうか?実は、昨今では「既存の業務システムを移行する」だけではない新たなクラウド活用も登場してきています。

 

例えば、「顧客がスマートフォンから手軽に予約できるような仕組みを作りたい」と考える小売業やサービス業の方は少なくないはずです。あるいは、製造業において「販売管理パッケージと独自に構築した生産管理システムのデータを連携させたいが、そのために新たにサーバ機器を導入するのは負担が大きい」といった悩みを抱えるケースも多かったりします。

 

実はこうした用途にもクラウドを活用することができます。その役割を担うのがPaaS(「パース」と読みます)と呼ばれるクラウドの一種です。多くの中小企業の方々が既にご存知のクラウドは会計やグループウェアなどの特定のアプリケーションを月額/年額で利用するサービスかと思います。こうしたサービスはSaaS(「サース」と読みます)と呼ばれます。つまり、クラウドには複数の種類があり、PaaSやSaaSもその一つというわけです。

 

PaaSは主に独自のアプリケーションを構築/運用する基盤として活用されます。その中には複雑なプログラムを作成することなく、「既存のシステムと連携するスマートフォン向け画面」「システム間のデータ授受を仲介する」などを手軽に構築できるものもあります。「既存システムと連携して、データを一時的に表示したり、仲介したりする」という役割を担うだけなので、既存のシステム全体を移行したり、データを外部に預ける必要がありません。以下の図は複数拠点で業務システムを利用する場合にPaaSを活用する例を示しています。

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つまり、既存の業務システムに追加するというアプローチによって、「移行に要する負担が大きい」というデメリットが生じることを防ぎつつ、追加部分を構築する際の「導入時の費用負担が少ない」というメリットを享受できるわけです。既存の業務システムにクラウドで機能を「ちょい足し」するといった感じです。PaaSはこうした「ちょい足し」において威力を発揮します。以前にSaaSの活用に取り組まれて断念した方もいらっしゃるかも知れません。その場合は、PaaSによる「ちょい足し」という視点から再度検討していただけると、また新たな道が拓けるかも知れません。

執筆者

iwakami岩上 由高(いわかみ ゆたか)

株式会社ノークリサーチ シニアアナリスト

早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業数社にて、ユーザ企業に対するIT活用提案の経験を積む。ノークリサーチではこうした経験を活かしたリサーチ /コンサル /講演 /執筆活動などを担当。
著書に「クラウド大全」(共著)(日経BP社)などがある。

http://www.facebook.com/yutaka.iwakami
http://twitter.com/Yuhtan

 

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