お役立ちコラム

中小企業の労働生産性向上策としてのIT活用について

数年前より、わが国でも「労働生産性」の向上策が重要と頻繁に叫ばれています。特に中小企業政策におけるITの利活用が、その対応策として有効とも言われています。ここでは、中小企業における労働生産性向上策として、やや限定した範囲で取り上げます。

労働生産性とは

そもそも労働生産性とは、どの様なことで、何が重要なのでしょうか?
公益財団法人日本生産性本部によれば、労働生産性とは、『労働者1人当たりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したもの』と定義されており、次式で求められると説明されています。

 

労働生産性=付加価値額または生産量など/労働投入量(*)
(*労働投入量:労働者数 または 労働者数×労働時間)

 

上記の“付加価値額”とは、一般的に企業が生み出す総生産額から原材料や外注費などのコストを差し引いた分を指します。更に商品やサービスに機能などの価値を付加することにより得られる利益とも定義されており、企業が得る利益ともっとも密接に関係しており、労働生産性を考える上で重要とされています。
また、労働生産性は国際間の比較評価指標としても用いられており、国家間の競争力の指標にもなっています。但し、単純な比較では人口が多い方が総額が高くなるため、一人当たり、もしくは1時間当たりの労働生産性が比較に用いられています。

我が国の取組み

日本の企業は大手も含め、長らく長時間労働が指摘され、政府としても「働き方改革」を掲げて、色々な施策を進めているところです。例えば、経済産業省がこれまで実施してきた補助制度のひとつである「革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金」いわゆる「ものづくり補助金」などの成果目標としても、3~5年で付加価値額年率3%および経常利益を年率1%の向上を達成できることが求められており、設備投資などによる生産性効率により、雇用環境の改善などへの効果を期待しています。

中小企業の雇用環境と人手不足の現状

我が国の雇用環境が改善する中で、現在の失業はミスマッチ等に起因する構造的失業と言う指摘があります。この背景には企業の求める職種と求職者の求める職種がミスマッチで、折角就職しても数年で離職に繋がってしまうと言うことです。逆に仕事内容に魅力があり、柔軟な働き方ができる中小企業は就職先として選ばれているとの分析もあります。「2017年版中小企業白書」によれば、人手不足の中でも多様な人材を活用できている企業は、生産性向上にもつながる業務の合理化・標準化に取り組んでおり、収益力の向上にもつながっている。と分析されています。

 

業務の合理化・標準化取組み

図.多様な人材の活用状況別に見た、業務の合理化・標準化の取組(中核人材)
(出典:「2017年版中小企業白書」平成29年4月中小企業庁調査室)

 

近年、直接的な業務効率を高めようと言う結果なのか、現場のQC活動など間接的に業務の効率向上等に繋がる取組みが以前より減っているのではないかと個人的には危惧していますが、上図の通り、成果の出ている企業では製造業に限らず非製造業に於いても「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」活動などの取組みも図られている様です。

 

 

好業績企業の取組み

図.経営利益の実績別に見た、人材不足企業の取組(非製造業)
(出典:「2017年版中小企業白書」平成29年4月中小企業庁調査室)

 

同じく「2017年版中小企業白書」では、人材不足でも業績を伸ばす企業は、省力化・IT導入・アウトソーシング等に取組んでいると分析されています。上図によれば、特に「バックオフィスへのIT導入」が対策として最も重要と捉えられている様です

労働生産性の国際比較

日本生産性本部が2016/12/12に発表した、2010~12年の生産性平均値の日米比較によれば、国内サービス産業の生産性は米国の5割で、特にサービス業の卸売・小売業が米国の38.4%、飲食・宿泊業が34%と低水準にとどまったと指摘しています。この要因として、IT(情報技術)の導入が遅れているのが主因と分析されています。

 

主要国の労働生産性推移

図.米国と比較した主要国の労働生産性(米国=100)
(出典:「労働生産性の国際比較2016年版」2016/12/19日本生産性本部)

 

労働生産性とIT活用の日米比較に関しては少し前になりますが、内閣府が「世界経済の潮流」として2004年4月27日に「アメリカの教訓―IT活用による労働生産性の加速」としてまとめられており、米国の労働生産性上昇率が1990年代後半から高まり、日・欧を追い抜いていることの要因分析がなされています。

 

日米欧の生産性上昇率の推移

図.日・米・欧の労働生産性上昇率
(出典:「世界経済の潮流」として2004年4月27日に「アメリカの教訓―IT活用による労働生産性の加速」内閣府2004年4月27日)

 

「ものづくり大国」と言われる日本の製造業では、1970年代以降に生産ラインへロボットが導入されるなど、様々な自動化によって生産性は飛躍的に向上したと言われています。上図の通り、高度経済成長期に労働生産性が高く推移していましたが、バブルの到来などで低迷した以降、欧州とともにほぼ横ばい状態となっています。これに対し米国だけは1995年頃を契機に上昇しており、これはIT活用による効果と分析されています。米国の労働生産性の詳細分析等によれば事務職の生産性が極めて高く、世界規模のサービスをいくつも提供しているため、全体として高いレベルの労働生産性を維持していると分析されています。
一方、わが国では、90 年代を通じて労働生産性が低下しており、2000年以降はIT投資が進められてきたものの、分野別にみると特に非製造業における生産性上昇率の低下あるいは下落がその要因と指摘されています。

IT投資におけるポイント

わが国にけるIT投資を経営情報システム関連の導入と捉えると、その歴史は、1980年前後から進められたMIS(経営情報システム )や、それを発展させた戦略情報システムなどへと変遷し、ハード面でもオフコンからミニコン、更にダウンサイジング化が進展しました。この頃から中小企業においてもシステム導入が拡がり、1990年代以降はVANなど通信インフラサービスの登場に伴い、企業間取引(B2B) における電子データ交換(EDI) などのインフラも一部の業界などでは整備されました。特に2000年頃以降はインターネットの普及やXML(可変長)電文などの技術が採用され、企業間取引(B2B)や企業対消費者間取引(B2C)といったeコマースが台頭し、ERPパッケージや生産管理システムなどの導入も図られてきました。更に近年は、クラウドシステムなどの仕組みにより購入ではなく利用するシステムが登場し、中小企業・小規模事業者でも比較的安価で直ぐに試せるようになり、この春に公募された「IT導入補助金」事業にも、多くの企業が応募された模様です。
しかしながら、これまでのわが国のITシステム導入では、米国ほどの生産性向上効果が得られなかった要因はどの様な事でしょうか?
欧米ではトップダウン式に物事が推進されますが、わが国ではボトムアップいわゆる現場主義が起点になることが多く、現場の課題を解決することが推進力となります。しかしながら経営情報システムは、トップが事業運営に活用するものであり、全社戦略に基づき、それぞれの社内システムを統合し構築する必要があります。この統合とは、例えシステムが異なっていても情報(同じデータ)を共有・利用する仕組みであることが重要となります。もし、それぞれの現場や部署で別々のシステムを導入し、それぞれの職場で何度も同じ情報を入力し直しているとシステム化しても生産性の向上にはつながりません。社内のあらゆるシステムがデータを共通的に活用出来て、また受発注情報などは、どの企業とも共通的に情報をやり取りできる仕組みを活用できることが重要となります。
しかし、この様な素晴らしいシステムを導入しても、やはり社員の方が使いこなせないと意味がありません。社内組織だけでは困難な場合は、専門家に相談して頂ければと考えます。中小企業・小規模事業者様を支援する者のひとりとして、IoT化やAI活用なども含めた新しい技術の活用法を理解し、少しでもお役に立てれば幸いです。

執筆者

村上 出

村上 出(むらかみ いずる)

大学では、生物系のテレメトリーシステムを専攻。卒業後、工場プラントの自動制御システム・自家発/売電システムのSEとして従事。電機メーカーに転職し、マルチメディア系OS・アプリケーションシステムの設計・開発。その後、車載システムの企画・設計・開発・品質管理・市場対応など、ITS・テレマティクス製品の一連のものづくり工程を商品開発責任者として担当。自動車メーカーでの開発実状に詳しい。2009年4月に独立。東京都や神奈川県を中心に、中小企業・小規模事業者様の経営全般のご支援ならびに、国・自治体などの地域産業振興政策をサポート。近年、モノづくりBtoB企業様からも、ウェブマーケティング関連のご相談を頂き、クライアント様に合う方策をご提案・ご支援させて頂いている。また、中小企業のIoT化についても、ご相談が増加しており、最新・低コストな取組みご支援にも応じている。

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