お役立ちコラム

第4次産業革命って何だ?(第3回): サービスとしてのAI

今回のテーマは、AI(人工知能)です。

1.AIブーム

今、AIがブームですが、これまでにも二度、AIブームと呼ばれる時期があったので、今回のものは「第3次AIブーム」と呼ばれています。

1950年代後半から1960年代にかけての第1次AIブームでは、コンピュータによる「推論」や「探索」が研究されました。1980年代の第2次AIブームでは、「知識」を「IF~THENルール」で記述した「エキスパートシステム」が作られました。いずれも減速してしまったのですが、今回のブームは本物なのでしょうか。

 

「ディープラーニングの登場」

コンピュータが学習することを「機械学習」と呼びますが、第3次ブームの鍵となる技術である「ディープラーニング」では、コンピュータに学習させる知識(「特徴量」と呼ぶ)をコンピュータ自ら大量のデータを分析して発見することができます。

このブレークスルーとも呼べる技術の登場により、多くの人が今回のAIブームは本物ではないかと考えています。また、以前と比べてハードウェアの性能が格段に向上したり、インターネットの普及で大量のデータ(ビッグデータ)を集められるようになったのも、成功を期待する根拠になっています。

 

「囲碁や将棋で名人に勝つ」

ブームに火をつけたのは、囲碁や将棋の世界でコンピュータが名人に勝ったことでしょう。昨年、囲碁では世界王者に何度も輝いた柯潔(か・けつ)九段が、将棋では佐藤天彦名人がコンピュータに敗れました。一躍有名になったのが、Googleが開発したAlphaGo(アルファ碁)というAIです。アルファ碁はディープラーニングを使っています。

 

「AIは人間の雇用を奪う?」

AIが普及すると人間の仕事が奪われて失業者が増えるのではないかと心配する人もいます。野村総研の「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」というレポートはオックスフォード大学との共同研究に基づいたものだそうです。

実際、すでに株取引の多くは人工知能が行っていますし、コールセンターの応答などにも人工知能が使われています。金融業界では、人工知能の応用であるRPA(Robotic Process Automation)により、数万~数十万時間の稼働が削減されています。自動運転が普及すれば運転手がいらなくなるかもしれません。

しかし、日本の労働市場の現状を広く見渡してみると、失業が増えるというよりは、あらゆる産業分野で人手不足が深刻になり始めています。まさに「AIでも導入しないと事業が続けられない」ような話が出てきています。

 

2.AIの定義

東大の松尾准教授は、AIを「人工的に作られた人間のような知能」と定義しています。もっとも、「10人学者がいれば10通りのAIがある」状況でもあります。

第2次AIブームでも、これはAIと呼べるのかな、と首をかしげたくなるようなものがたくさんありました。特に「AI家電」と呼ばれるものには、怪しげなものが多いです。ちょっと検索してもAI洗濯機、AI冷蔵庫に始まり、AI歯ブラシやAIシェーバーまであります。少し賢い機能を持ったソフトウェアを「AI」と称しているのもあります。

本レポートでは、AIを「人間のように、認識したり、分析したりする(コンピュータ)システムで、学習により成長するもの」と定義しておこうと思います。

ポイントは、以下の3つです。

①コンピュータのシステムの1形態であること

②人間の知能のうち、外界を認識する機能や情報を分析する機能をもつこと

③学習により知能が強化されていく(精度が向上する)こと

なお、ロボットも同じと思うかもしれませんが、ロボットは人間の目や耳や鼻にあたるセンサーや、手足にあたるアクチュエータ(動力源)をも備えていますし、AIのような高度な知能を持っていないロボットもあります。

本レポートでは、AI家電やロボットの話は置いておくことにします。

 

3.AIサービス

筆者らは、AIがビジネスの場面で使われる時は、ネットワーク経由の「サービス」として提供されるようになるだろうと考えています。本レポートでは、これを「AIサービス」と呼ぶことにします。

 

1)AIがサービスとして提供される理由

筆者らがAIはサービスとして提供されるようになると考える理由は、次の5つです。

①AIは大量のリソースを必要とする

AIは大量のデータを使って学習を行うため、超高速のコンピュータが必要です。また、大量のデータを保管する設備(ストレージ)も必要です。これらをユーザ各社が用意するのは大変なので、クラウド事業者のサービスを活用するのが現実的です。

②AIは日々成長する

AIは学習することによって成長していきます。すなわち頻繁に更新が繰り返されることになります。これを自社で管理するのは大変です。AIサービスを利用すれば、その更新作業から解放されます。

③サービスなら組み合わせることができる(AI連携)

サービスとしてのAIであれば、複数のAIを組み合わせてシステムを構築するのも比較的容易です。各ベンダーのAIのいいとこ取りするようなことも考えられます。複数のWebサイトの機能を連携させる「マッシュアップ」と同じ考え方です。

④サービスならデータを共有できる

AIでは判断の精度を上げるためにデータをいかにたくさん集めるかというのが鍵になってきます。一人でデータを全部集めるというよりは、複数の者で集めて共同利用するということも出てくると思われます。データの共有にもサービス型のAIが効率的です。

⑤作らずにすます、という経営戦略

全部のAIを自社で開発せずに、既存のAIを活用するという選択肢もあります。そのためには、AI(またはAIの部品)がサービスとして提供されていると便利です。

 

2)総務省の「AIネットワーク社会推進会議」での検討

日本を代表するAI専門家を集めた「AIネットワーク社会推進会議」(総務省主催)で、AIのあり方についてのさまざまな検討が行われています。

昨夏に公表された報告書によれば、AIはネットワーク化されて以下のような進化をしていくと考えられています。

また、AIネットワーク社会におけるサプライチェーンとして以下のようなモデルが示されています。

筆者らが考える「AIサービス」はこのモデルを参考にしています。

 

4.AIサービスのビジネスモデル

次にAIサービスのビジネスモデルについて考えてみましょう。

 

1)AIの仕組み

AIのビジネスモデルを考えるにあたっては、まず下図のようなAIのおおよその仕組みを知っておく必要があると思います。

AIには「学習」と「推論」という2つのプロセスがあります。「学習」のプロセスにおいては、AIは大量のデータを分析し、ディープラーニングの技術を使って「特徴量」というものを抽出します。(特徴量という言葉はわかりにくいので、筆者は「スマートデータ」または「知識データ」と呼んでいます。)例えば、猫の写真をたくさん見て、猫の特徴として、ひげがある、耳が三角、というような知識を得ることです。

次の「推論」は、抽出されたスマートデータをもとに与えられた命題を解くプロセスです。例えば、1枚の動物の写真を見て、それが猫かどうかを判断するようなことです。

 

2)ビジネスモデルを考える上での3つの観点

次に、AIサービスのビジネスモデルを考えるにあたっては、以下の3つの観点から考える必要があります。

 

①AIの開発主体 - 自社開発か他社開発か

すべてのAIを自分で開発するというのは大変です。莫大な資金も必要になります。早くからAIを開発している企業でも、誰かが開発したAIをうまく活用することを考えるところが多いです。

<API>

誰かが開発したAIを使うためには、開発した者がAPI(Application Programming Interface)と呼ばれるインタフェースを提供する必要があります。これはプログラムを外部から呼び出す手段の1つです。例えば、IBMのワトソンは〔会話、言語変換、自然言語分類、性格分析、感情分析、画像認識、探索、テキスト分析、ニュース、ナレッジ・スタジオ、音声認識、音声合成〕といったAPIを提供しています。

API経由で他社のAIを使う場合は、AIの構造のところで解説した「推論」のプロセスのみを使うことになり、「学習」のプロセスは、API提供者に任せることになります。

<フレームワークとライブラリ>

他者が開発したAIの活用の仕方は他にいろいろとあります。AIのプログラムのひな型(「フレームワーク」と呼ばれる)を使う方法や、AIの部品を呼び出して使う方法などです。部品の集合は「ライブラリ」と呼ばれます。ディープラーニングに対応したフレームワークとしては、Googleの「TensorFlow」が有名です。

 

②AIの提供先

AIを開発する者が、直接ユーザにAIを提供する場合と、AIを提供する者(「プロバイダ」と呼んでおきます)に提供する場合とがあります。

③データ収集者

AIの構築においては、AIの学習に使う大量のデータを誰が集めるかも問題です。ユーザがデータを提供する場合と、開発者が(他から)集めてくる場合、その両方の場合が考えられます。さらに、世界中のデータを使ったほうが賢いAIを作ることができるのであれば、データ収集の仕組みそのものを見直す必要があります。

スタンフォード大学の有名な「猫認識」のAIでは、世界中から6万2千点以上もの猫の写真を集めたそうです。

 

3)典型的なビジネスモデルの例

上記の3つの観点を考慮して、典型的なビジネスモデルの例としては、以下のような組み合わせが考えられます。

・フレームワークやライブラリを利用して自社でAIを構築する。

・提供先はユーザ

・データはユーザが提供する他、開発者側も収集する。

このビジネスモデルの概念図は以下のようになります。

5.AIサービスの課題

AIサービスはこれからのビジネスと言えます。さまざまな課題も見えてきました。

 

1)安全性 - 暴走するAI?

多くの人が不安に思っているのは、映画のようにAIのネットワークが暴走して人間が制御できなくなることでしょう。AIの安全性については、いろいろなところで検討が行われています。

 

「AI開発ガイドライン」

前述のAIネットワーク社会推進会議は、昨年「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」をとりまとめました。このガイドライン案によると、AIの開発にあたっては、以下の9の原則を守るが望ましいとされています。

①連携の原則、②透明性の原則、③制御可能性の原則、④安全の原則、⑤セキュリティの原則、⑥プライバシーの原則、⑦倫理の原則、⑧利用者支援の原則、⑨アカウンタビリティの原則

安全性にかなり配慮したガイドラインだと思います。また、手塚治虫の漫画「鉄腕アトム」に登場する「ロボット法」やアイザック・アシモフの「ロボット法三原則」を思い出させるものでもあります。

 

2)責任の所在 - 賠償責任と説明責任

 

「賠償責任」

AIを使ったために問題が起きたときは誰が責任をとるのでしょうか。AI自身は責任(特に損害賠償責任)を負えないので、開発者が負うのでしょうか。API経由で他社のAIサービスを使った場合の責任分担はどうなるでしょうか。

基本的には民法(すなわち契約の解釈)によることになると思いますが、ロボットのような「製造物」にAIが搭載されているときは、無過失責任に近い製造物責任を負う可能性もあります。責任の所在を明確にするには新しい法律を作る必要があるかもしれません。

 

「説明責任」

AIが出した答えについて納得のいく説明をする責任についても同様の問題があります。AI(特にディープラーニングを使っているAI)の出した答えは、意味が分からないことも多いです。例えば、将棋でコンピュータが指した初手「3八金」の意味は、有段者でもわからなかったようです。AIサービスにおいては誰が説明責任を負うのでしょうか。

最近では、「説明責任を果たせるAI」(理由を説明できるAI)の研究も進んでおり、その成果が期待されます。

 

3)データの権利

 

「データが価値を生む」

AIの構築の過程においては、データを大量に集め、そこから知識を獲得することが行われます。この知識が価値を生むとなれば、ビジネスの可能性を感じる人も多いと思います。金融取引などでは、新しく獲得した知識が莫大な利益を生むかもしれません。

AIが価値を生み、利益を生む場合、AIサービスにデータを提供した人の権利はどうなるのでしょうか。利益の配分を受けることができるのでしょうか。これまではデータを提供した人の権利についてはあまり意識されてこなかったのではないかと思います。

 

「経済産業省での検討」

現在、経済産業省の「AI・データ契約ガイドライン検討会」においてAIが取り扱うデータの権利についても検討が行われています。

 

4)AIの賞味期限

大手ベンダーの話では、AIは進化のスピードが速く、3か月もするとモデルが大きく変わっているそうです。こういう刻々と変化する(賞味期限の短い)AIをどう使っていくかというのも悩みの種です。

基本的にはクラウドで提供されるAIサービスであれば常に最新のAIを使えると思われますが、大きくモデルが変わる場合に、どの時点の結果を使うかという課題は残ると思います。

 

6.AIとの付き合い方

1)基本的な考え方

AIとの付き合い方は、まず怖いものであるとか、難しいものであるという先入観を持たないことだと思います。

ただ、AIのリスクについては注意しておく必要があります。先日もアメリカで自動運転の車による死亡事故が発生したばかりです。すべての判断をAIに任せるのは危険なので、人間がコントロールできる余地を残す必要があると思います。

また、世の中の流れは、人間がAIに職を奪われるのでAIに反対するというより、人手不足の解消という観点からAIを積極的に活用する方向に進んでいるように思われます。ただ、AI時代には人間の仕事も大きく変わり、AIを活用する新しい職業も生まれてくるでしょう。そういうスキルを身につけることも必要になると思います。

 

2)情報を収集する

では、何から始めればいいかと言えば、やはり情報収集でしょう。AIについては、書籍や文献も多く、あちらこちらで研究会やセミナーが行われていますので、情報源には困らないと思います。筆者らは本レポートのテーマである「サービスとしてのAI」を研究する「AIサービス研究会」を開催していますので、よかったらご参加ください。

http://www.aspicjapan.org/event/cloud/ai/index.html

 

3)AIに触れてみる

AIは意外と身近にあるので、まずは触れてみるといいと思います。

 

「使ってみる」

筆者は先日AIを使う場面に出くわしました。韓国語の翻訳を頼まれたのですが、韓国語は全くわかりません。思いついたのは、Google翻訳のサービスを使うことです。ものは試しと思って、韓国語を日本語に翻訳させてみると、少々変な日本語ですが、意味は通じる文章が出てきました。さらに韓国語を英語に翻訳させてみると、ほぼ完璧な英語の文章になりました。そこで、英語に自動翻訳された文章を見ながら、自分で日本語に翻訳することにして、全く知らない言語の翻訳に成功したのです。

 

「作ってみる」

筆者は、第2次AIブームのころに、LISPやPROLOGといったプログラミング言語を使って自分でAIを作っていましたが、最近はAPIという便利なものがあり、他の人が作ったAIを呼び出して使うことができます。まずは、AIベンダーのAIサービスを使って簡単なAIを作ってみてはいかがでしょうか。

 

7.まとめ

①AIは認識や分析ができ、学習によって成長するシステムである。

②AIは(ネットワークの)サービスとして提供されるようになる(と思われる)。

③AIのビジネスモデルには、開発者、利用者、データ収集者などが登場する。

④AIには、安全性、責任分担、データの権利、陳腐化などの課題がある。

⑤AIと付き合うには、情報収集から始めて、自分で触ってみることが重要。

 

 

執筆者

日高 昇治(ひだか しょうじ)

 

NTTデータアイ所属、NPO法人ASPIC執行役員。

http://www.aspicjapan.org/

NTT入社。NTTデータに30年勤務し、20世紀後半から21世紀にかけて、IT分野の新技術を研究し紹介する活動を続けている。2006年から2008年まで明治大学で「情報政策論」の講師も務めた。現在は、ASPICでAIやIoTなどの新技術の研究に携わる。主な著書に「手にとるようにユビキタスがわかる本」、「ICタグって何だ?」、「Bluetoothって何だ?」、「カラーコードって何だ?」、「図書館情報技術論」などがある。最近刊は「スパースモデリングって何だ?」(2017年、カットシステム)

ITコーディネータ、情報処理安全確保支援士、システム監査技術者、システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、ITサービスマネージャ 他

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