ICT活用実践企業紹介

ICTを利活用したプロジェクト管理の強化で生産性向上を実現

情報サービス業(A社)

本事例は、中小・小規模事業者が抱える問題に対して、ICT化推進によって生産性向上を実現するに至るまでの過程と、問題解決に向けたポイントを記述します。
本稿で取り扱う「生産性」とは、企業で働く就業者の「労働生産性」を意味します。【労働生産性=労働による成果(付加価値)/労働投入量(就業者数×労働時間)】

1.背景

本事例で紹介するA社は、「情報サービス業(情報システムの開発および保守サポート)」の事業者です。
東京都内を所在地とする数十名規模の就業者がいる企業で、BtoC(Business to Consumer)向け事業として、WEBサイトでの物販を行っています。お客様の各種問合せは、WEBサイトからのメールや電話とFAXにより、日本国内の各都道府県から幅広く寄せられます。今後の事業拡大に向けて、自組織が取り組むべき問題点に関する個別相談から派生します。

2.現状把握

A社の現状把握として、企業が抱える問題点を「現場・現物・現実」の3現主義の観点で確認を行います。

(1)就業者の作業負荷が高い状況が続いている

A社では日々、限られた人数でそれぞれの担当業務に対応しています。その為、特定の就業者に対して作業負荷が集中することがあり、結果として月初めや月末等の特定の期間だけではなく、毎月の残業時間が多い状況が続いていました。
・現状分析:【問題点1】誰がどの作業タスクに対して、具体的にどの位の時間を費やしているのかが把握できていないため、実態に基づいた評価・分析や組織的な支援ができていない。

(2)お客様からの各種問合せに対して迅速に対応ができていない

A社ではお客様からの問合せに対して、カスタマーチームの担当者が受付を行い、受付記録として自社内で管理するファイルサーバー上のExcelファイルに受付記録を管理していました。各種問合せに対して、受付者がそのまま担当者として対応を行っていた為、日を跨いだ問合せでは、担当者不在時での対応が遅れることがある。
・現状分析:【問題点2】担当者間のコミュニケーションが不足しており、進捗管理やナレッジの共有ができていない。

3.目標の設定

A社が抱える現状の問題点に対して、組織としてのあるべき姿を明確に定め、問題点とあるべき姿の乖離(GAP)を解消することを目的とした目標の設定を行います。ここでは、初めからハードルの高い目標(KPI)を設定せずに、小さな目標値を設定して成功体験を実感する事で、活動の推進力を高めながら、継続して問題点とあるべき姿の乖離(GAP)を解消することがポイントとなります。組織としての管理能力を高めながら、定量的な目標値を定期的に確認して見直すことが推奨されます。

 

【問題点1】誰がどの作業タスクに対して、具体的にどの位の時間を費やしているのかが把握できていないため、実態に基づいた評価・分析や組織的な支援ができていない。
各就業者が1月あたりに対応している作業タスクと、それぞれの作業タスクに費やした時間を把握する事ができていないと、そもそもA社が労働生産性を向上しているかどうかを、具体的な数値として測定することが出来なくなります。その為、勘や経験だけで判断を行わずに、「作業タスクや作業タスク毎に費やしている時間を測定する事ができる仕組み」を組織として定着させることが必要です。

 

【問題点2】担当者間のコミュニケーションが不足しており、進捗管理やナレッジの共有ができていない。
A社が抱える現状の問題点として、カスタマーチームの担当者間で問合せ内容と対応状況が共有されていない為、誰がどのように対応しているかが不透明で、各担当者の対応方法にはバラつきがありました。しかし、各担当者の対応方法でどのアプローチが労働生産性として高いのかを評価をせずに、属人的な対応が行われていた為、まずはお問合せに対する担当者の対応時間等の評価軸を定めて測定を行うことが必要です。

 

【問題点1】と【問題点2】の解決に向けて、定量的な目標設定を行うためには「時間の測定できる仕組み」と「評価軸を定める」ことが共通して必要です。問題点の解決に向けて、何も根拠がなく「残業時間を毎月ゼロ時間になるように削減する」というハードルの高い目標を掲げたとしても、絵に描いた餅となってしまう為、現場の実態に即した目標設定が重要です。
定量的な目標設定としては、5つの要素の接頭辞から構成される「SMART」の観点が役立ちます。
『Specific(目標が明確であること)、Measured(測定が可能であること)、Achievable(達成が可能であること)、Realistic(達成が現実的であること)、Timed(達成の期限があること)』

4.対策検討と実施

(1)対策の検討

A社の抱える問題点の解決に向けて、定量的な目標設定を行うためには「時間の測定できる仕組み」と「評価軸を定める」ことが必要です。中小・小規模事業者であるA社では、巨額の投資を行うことは現実的に困難であるため、できるだけ必要なコストを低く抑えた対策の検討が求められています。
本事例では、無償で利活用することができるオープンソースソフトウェア(OSS)のRedmineと呼ばれるプロジェクト管理ツールを、A社内で管理しているサーバーにインストールをして、就業者のユーザーアカウントを作成して、Redmineを利活用することのできる環境を構築しています。
(参考情報:複数の拠点間を跨ぐ場合は、有償のレンタルサーバーを契約して、Redmine環境を構築することで、様々な拠点から管理用のWEB画面にアクセスする仕組みを構築する方法もあります。)

(2)対策の実施

対策の実施(概要)は、以下の通りです。

■Redmineの導入と測定
プロジェクト毎のタスク(業務)を「チケット」として小分けに分類して、管理を行うことができます。
A社の事例では、お客様からのお問合せ1件の内容に対して、WEB管理画面上でチケット1件として情報を入力します。
WEB画面上でお問合せ1件に対するタスクの「活動記録、チケット管理、作業時間管理、ガントチャートによる各タスクの進捗管理など、プロジェクト管理として有益な機能が提供されているため、これらの様々な機能を有効活用することによって、A社に所属する就業者別の作業時間を測定することができます。労働生産性の向上に向けた対策として、何がボトルネックとなっているのか等を評価・分析によって特定ができるようになりました。

 

 

■Redmine日本語情報提供サイトhttp://redmine.jp/
(参考情報:利用環境の準備として、ご自身でRedmineの環境を構築する方法として、「all-in-oneインストーラ」パッケージを活用する方法があります。)

5.効果の確認

A社の事例では、プロジェクト管理システムのRedmineを導入して、就業者1人あたりの生産性を測定して、個々の作業タスクの時間を1つずつチケットとして管理を行い、月毎に定期的に評価・分析(見える化)を行うことで効果を確認します。

 

・どの就業者が、作業負荷が高いのかがわかる。
⇒作業負荷の平準化によって、残業時間を削減した。(例:○○さんの作業負荷が著しく高い為、毎月の残業時間が発生していることが分かった。特に上位3つの作業タスクに時間を要していることが分かったため、比較的に作業負荷の低い△△さんに協力依頼を要請し、作業タスクを分業したり、作業プロセスを見直すことで、翌月以降より○○さんの上位3つの作業タスクに要する時間を削減する事が出来た。⇒副次的な効果として、CS[顧客満足度]やES[就業者満足度]としてのアンケート結果の向上が確認できた。)

 

・どの就業者が、労働生産性が高く、より多くの作業タスクをこなすことができるのかがわかる。
⇒生産性の高い就業者の作業手順や判断が必要となるポイントを業務上のナレッジとして、組織の関係者と情報共有することで、他の就業者のスキルが高まり、結果として他の就業者の労働生産性の改善が確認できた。

 

・作業タスク毎に、リードタイムとして時間のかかる要因を特定(ボトルネック)することができる。
⇒次に取り組む必要のある改善点を組織の関係者が“気づき”として得られる為、組織風土として改善に向けたコミュニケーションが活発になる。(例:○○氏が不在時に、「社内決済の承認」が滞り、作業タスクの遅延が発生していることが確認できた為、繁忙期前には○○氏と事前調整を行うという作業チケットで管理を行い、関係者間の作業タスクの遅延を削減した。)

6.標準化と管理の定着

A社の事例では、対策の実施が一過性で終わらないように、以下の追加施策を行っています。

  • 教育(OJT)計画に基づいた就業者の育成
  • 業務として必要な作業手順を示したマニュアルの作成と、定期的なマニュアルの見直しを定めたルールの明文化
  • 労働生産性を継続的にモニタリングするための仕組み作りと、評価・分析に基づいた目標値の設定
  • 業務プロセスや作業タスクとして自動化ができる工程を抽出し、人手からシステム等への移管を検討

7.まとめ

本事例では、情報サービス業(A社)が抱える問題点に対して現状分析を行い、新たに高額な投資を行うことなくプロジェクト管理システムのRedmineを利活用することによって、6ヶ月の期間で労働生産性の向上や顧客と従業員の満足度向上として、一定の改善効果を確認することができました。

 

A社では、業務フローや作業手順等の整備を行うとともに、プロジェクト管理の考え方が組織の中に徐々に浸透するにつれて、就業者の労働生産性の向上に繋がる人財育成としてのスキルアップや、業務プロセスの更なる改善に向けて、定型作業の自動化やRPA(Robotic Process Automation)技術による業務自動化等の取り組みに意欲を燃やしています。

 

貴社のビジネスにとって有効と考えられるICT活用の機会は無数にあります。是非、皆様も実践をして成果を上げて下さい。
[※本文に記載されている、会社名、製品名、サービス名等は、各社の商標登録または商標です。]

情報サービス業(A社)

黒石さん

黒石 悌黒石 悌(くろいし なお)

東京都内のIT関連企業に所属し、新規サービスの開発から運用・改善までの複数プロジェクトを歴任する。”ビジネスとITの橋渡し”を主眼としたコンサルティング実績として、通信系(営業マネジメントのWEBサイト)や金融系(WEBシステム)の開発プロジェクトとあわせて、企業における内部統制の整備や ITSMS規格、PMS規格の認証取得支援等の実績を持つ。

2016年4月より、東京 商工会議所のWeb戦略パートナーとして活動中。

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