ICT活用企業紹介

AR(拡張現実)を利用して、点検・整備業務の悩みを解消

点検・整備業 K社

当社は、主に輸送機器の点検・整備事業を行っている。最近では、通販の普及や訪日外国人観光客の増加などの影響もあり、点検・整備の依頼は増加傾向である。
ただ、特殊な技能を必要とする関係上、技術者の習熟度による技能の差が大きく、若手技術者の作業の効率や品質の問題、スケジュール遅延などに悩み、それらをどう解決するか苦慮しているところである。
現状、年齢層が高齢層に偏り、定年等で退職する技術者に対し、採用等で必要な人数を確保できず、慢性的な人手不足状況である。そのような状況で、ベテランは若手を指導するために十分な時間を割くことができず、若手の技能がなかなか向上せず、ベテランとの能力差が一向に縮まらない状況が続いている。
そのような状況に、若手技術者の就労意欲は高まらず、短期間で離職してしまうことが増えていた。このような悪循環に陥っていたのである。

点検・整備業務の課題

点検・整備の対象は多岐にわたり、関連する作業指示書などのマニュアル類は車種ごと・点検部位ごとにそれぞれ違っており、膨大な数になる。ベテランであれば、長年の経験による記憶などから、全てのマニュアルを参照しているわけではない。しかしながら、若手技術者はそういうわけにもいかず、常時マニュアルを参照しながら作業をしなくてはならない。
また、マニュアルでは表現しきれない、いわゆる長年の経験によって積み上げられてきた暗黙知のようなものが、作業の効率や作業結果の信頼性に影響する部分もある。従来は、このような暗黙知はベテランから若手へ時間をかけて継承していたが、前述のような状況から、ベテランから若手への技能伝承のための時間が割きづらくなってきている。
その上、近年の若年層は、短期間での技能の向上を求める傾向が強くなってきており、短期間で技能が向上しない、あるいは向上しそうもないと感じるとすぐに離職してしまうことが目立ってきていた。
このような悩みに対し、指導方法を改善し、若年層の技能向上と定着率向上を実現することも必要となっていた。

ARを知り、試してみることに

このような悩みを抱える中、点検・整備などにAR(拡張現実)技術を活用して成果を上げている企業があることを聞きつけ、さっそく調査を開始した。
「AR」とは、「Augmented Reality」の略で、日本語では「拡張現実」と訳される。実際に見える光景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を“仮想的に拡張する”というものである。ポケンモンGOをご存知の方であれば、まさにあれがARである。現実の風景のなかに、デジタル技術で創作されたポケンモンのキャラクターが現れる。

ARを知り、試してみることに

今回はスマートグラスを利用し、点検中の機器のマニュアルを表示したり、作業結果のエビデンスとして写真を撮ったりしてみた。
その効果は大きく、特に以下のような点で威力を発揮した。

AR活用による改善効果
1

点検箇所マニュアルのディスプレイ表示、ハンズフリー

作業手順書などのマニュアルの該当箇所やチェックリストを音声操作でスマートグラスに表示できるようにした。手でマニュアルをめくったり、チェックリストを広げたりする必要がなくなり、マニュアルやチェックリストを参照しつつも、常に両手を使って作業ができるようになった。 その結果、作業の効率が向上し、また、汚れた手で触るなどしなくなったので、マニュアルが汚損するようなこともなくなった。

2

ベテランによる遠隔支援

若手が迷ったり、想定外の事態が起こって対処できなくなったりした時などに、スマートデバイスのカメラ機能を利用し、ベテラン技術者によるリアルタイムのアドバイスを的確に行えるようになった。離れた位置でもベテラン技術者が若手技術者の見ている映像を共有できるので、このようなことが可能になったのである。 若手数人に対しベテラン一人の割合で十分対処可能なので、若手一人一人にもれなくベテラン技術者を割り当てなくても若手を支援できる。その結果、顧客の依頼をこなしながらも、ベテラン技術者による若手指導が実現できるようになり、組織全体の生産性向上と、若手の技能向上という2つの課題を同時に解決できつつある。

3

作業報告と進捗管理

作業のビフォー、アフターの写真などもスマートグラスの機能を利用して撮影でき、その後のレポート作成時にも撮影した写真がすでに差し込まれた状態になるなど、レポート作成の手間が軽減された。 その結果、作業が効率化されたのは勿論だが、どちらかというと退屈と感じるレポーティング作業の手間が軽減されたので、技術者の満足度も向上した。 また、写真撮影も含め、作業の報告のために行っていることにより、作業の進捗状況がより高い精度で、かつ迅速に把握できるようになり、遅延防止や点検作業の負荷の平準化等もしやすくなった。

導入には抵抗もあった

「AR」の導入だが、実はすんなりいったわけではない。それは技術的な面というより人的な面でのことで、ベテラン技術者の懸念が強かったことがその背景にある。ベテラン技術者は今回のARの導入により、自分たちの存在価値が低下するのではないかと感じ、導入を警戒していた。 そこで、改善効果でも指摘したことだが、ベテランにとっても退屈なレポーティング作業が楽になること、そして何より、遠隔支援はベテラン技術者にしかできず、そのためにベテラン技術者の存在が欠かせないことを粘り強く伝えて協力を取り付けた。 今回のことに限らず、特に現場においては、ITの導入を警戒する人たちがいるのが普通であり、その点への配慮を軽視するとITの導入がとん挫しかねない。一方、働く人のためのメリットも示せれば、現場の協力が得やすくなり、導入の成功率も高まる。 今回は、その点でうまくベテランの協力を取り付けられ、ベテラン、若手双方にメリットのあるIT活用とすることができた。もちろん、組織にも大きなメリットをもたらすことができた。